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  1999年7月11日(日曜日) 曇り
教師の視線

 クラスで1番の成績のA君があるときこういいました。
「センセ、僕入学した直後のテストでは43人中43番だったんよ。」

 A君は高校三年生。面白そうな話なのでちょっと聞いてみました。


 M君は生まれたときから視力が弱かったらしい。両親はそれに気がついていなかったのだけど、幼稚園へ行くようになって、幼稚園の先生がそのことに気がついてくれたんだという。

 親は自分の子どもだけしか知らないので異常に気がつきにくい。幼稚園の先生はいろんな子どもを見ているので判りやすいらしい。

 こんなことに気がつくのも学校教員の仕事の一つであろう。

 M君は病院に連れていってもらったが既に手遅れだったという。現在の視力は右が0.07、左が0.1。

 視力は弱かったが、小学校2年まではけっこう勉強もした。板書が読めないので、ノートを取るときは前へ出て50cmくらいまで近づいて書き取っていたという。そんな努力の甲斐あって成績もまあまあ良かった。

 三年生になったとき、新しい先生になった。M君がいつものように前へ出て板書を移していたら、その先生に「邪魔だからどきなさい」と言われた。

 この一言がM君のその後の生活をかえてしまった

 M君はカチンと来た。
 「ドウスレバエエンヤ…ミエンノニ…勉強セニャナランノニ…」

 この日からA君は勉強をしなくなった。ノートもとらない。
 4年生になってメガネを懸けるようになったが、もう勉強について行けなくなっていたという。

 中学に入って、他の教科は全然だめなので、新しい教科の英語で何とかしたいと思った。しかし、結局、英語の言葉の順序が飲み込めずツマッテしまった。

 それで、キセキテキに今の高校へ入った。かなりうれしかった。
 新しい学校で気合いを入れなおしてがんばるつもりだったが、4月最初の実力試験の結果は散々で、43人中43番だった。

 それでもめげずにナンとかがんばっているうちに、 5月の中間試験ではクラスで6番になった。そして、1学期の期末の成績では1番になってしまった。その後は大体1番で通している。


 ヒャア、すごいね。なんで高校に入ってそんなに変わったの?

 A君はその秘密を次のように話してくれました。


 「自分で高校へ行くことを決めたけんね。やっぱり勉強せんといけんやろ。」

 「それからね、先生の目を見ながら勉強するようにしたんよ
 そうすると、僕がわからんような顔をすると、先生がゆっくり説明してくれるんよなあ。
 うんうん、とうなづくと、次に進んでくれる。どの先生も同じ。これで、勉強がわかるようになったんよ。」


 A君の成長の過程で教師の視線のすごさが見て取れます。A君の病気を発見した幼稚園の教師の視線。A君を邪魔者と見たおかげでA君のやる気をなくしてしまった小学校の教師の視線。A君の理解を測る高校の教師の視線……。教師を見ている生徒がいたらしっかり視線を合わせてやりたいものです。

 p/s
だけど、実はこのクラスは、勉強するのは前の三列だけであとはワーワー騒いでいるのだそうです。その喧騒の中で勉強の面白さをつかんできたA君たちもえらいけど、この三年間でやる気を失った生徒もたくさんいそうです。複雑な気持ち。


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