2003年6月17日 火曜日

沖縄の綱引(講義ノート)

 沖縄各地には独特の綱引行事が継承されている。那覇の大綱引など人出が多すぎるのでいきたくないという人もいるくらいで綱引当日の盛り上がりは大変なものらしい。糸満市の郊外にある真栄里の綱引は昔どおりの綱引として有名だという。旧毎年暦8月16日に行われるのだが今年は9月12日に当たる。是非行ってみようと思っている。

 波平エリ子先生の授業「沖縄の民俗」で綱引が取り上げられた(5月20日)。以下はその時の講義と見せていただいたビデオの記録である。最後の数行はちょっとあやしい。聞き間違いがあるかもしれないなあ。

一 沖縄の綱引の特徴
 本土でも各地で綱引が行われているが沖縄の綱引には次のような特徴がある。
  1. 1本の綱を引き合うのではなく、雄綱(ウージナ)の先の輪を雌綱(ミージナ)の先の輪に挿入し、雄綱の輪に貫木口(クヮヌチボー)という棒を差し込んで結合して引き合う。このような綱引は、本土でも秋田、茨城、熊本などで数件散見されるが、沖縄の綱引はすべてこの形式である。(忘暮楼:人々はこれを豊穣ををもたらす性交の表現であると考えている。)
  2. 沖縄の綱引は無病息災など個人的幸運をもたらさない。集落の豊作を占う行事である。
二 綱引行事の実施状況

  1. 1988年の調査によると、現在実施している綱引が170ヶ所、「昔はやっていたけど今はやらないさー」が134ヶ所だった。そこで「昔」は300ヶ所に綱引行事があったと考えられる。
  2. 昭和11年ころからやらなくなった。男たちが兵隊にとられて「田んぼがなくなったから、綱が編めなくなったさー」。
  3. 1972(昭和47)年の日本復帰がころから復活し始めた。
  4. 例えば字真栄原の綱引は、まず字大山が名護市から藁を購入して六月ウマチで綱引を復活。その綱を浦添市字西原が譲り受けて六月カシチで使った。この綱がさらに字真栄原に譲られ、真栄原のスポーツ大会で使われた。これがきっかけで真栄原の綱引が復活した。
  5. 真壁の場合は与那原から綱を購入した。昔は綱引が終われば裁断して田んぼの肥やしにしていたが、今では貴重な藁なので真壁ではそれを2年間使った。この綱は西原市小森に譲られて綱引行事に使われた。
  6. 現在では、綱引の材料になる藁は台湾から輸入されたり、大阪の注連縄業者から購入したりしている。
三 綱引行事の行程概略
  1. 8月1日 拝み(ウグヮン)
  2. 組の分け方
    村を二つに分けるわけ方としては門中(ムンチュー=父系血族)で分かれる場合と、ある道路を境界にして地域別で分かれる場合がある。東(アガリ)組と西(イリ)組に分かれる場合が一番多いが、上・下、南・北、古・新で分かれるところもある。
  3. 道ジュネー 
    雄綱、雌綱を集落を二分する二つの組が担いで村のなかを行列する。綱を担がず行列だけをするところもある。組の象徴であるハタガシラを立て、パーランクー(小太鼓の一種)やドラを打ち鳴らして行進する。
  4. ガーエー
    朝鮮語辞典には「gaaee 綱引(チナフィチ)の時のもみ合い。綱引の威勢をつけるために、大勢が拳おを頭上に交差して上げ、背中を向け合ってもみあう。拳を上に上げるのは、喧嘩を避けるため。」とある。女性だけで即興の唄を歌い合って相手を揶揄するところもある。
  5. 8月16日 綱引(チナフィチ)
    夜中に引くところもある。村の人以外には引かさないところもある。誰でも入れる綱は「諸人綱(スニンジナ)」という。
四 糸満市字真栄里の綱引の行程(上映されたビデオの説明をメモしたもの)
  1. 真栄里では東村と西村の二組で競う。
  2. ウグヮン(御願)
    各組の拝み。女性が担当する。
  3. ジーヌー・クンダテ(芸能組み立て)
    当日上演される芸能を各組で打ち合わせる
  4. ウドゥイ・ガミー(踊り構え)
    当日の踊りについて各組で打ち合わせる
  5. アシビ協議
    東村西村が一堂に会して、20以上ある当日のアシビ(遊び=芸能や踊り)の演目が東西でダブらないように協議する。ダブってしまっている場合激しい議論になることがある。
  6. アシビの稽古
    組ごとに、棒術・南の島(フェーシマ)踊りなどの練習。那覇あたりで働いている若者も夜は帰ってきて練習に参加する。
  7. 藁の搬入
    組ごとの作業。稲作をしなくなったので本当北部から購入していたが、現在では台湾から輸入している。
  8. 藁の搬出
    組ごとの作業。今は当日に近い日曜日に実施。綱打ち当日16歳から60歳までの男性が藁を運び出す。
  9. チナウチ(綱打ち)
    組ごとに一日がかりで綱を打ち上げる
  10. 大綱の組み立て
    組ごとにドラを打ちながらまっすぐな綱の先を輪をつくって綱引き用に組みあげる。
  11. チナウチ(綱打ち)のウグヮン(御願)
    組ごとの同時進行で、組の役員や長老が参加して神事を行う。
  12. チナフィチ(綱引き)協議
    東西両組の代表が一堂に会して、綱引き当日の掟の細目を協議する。綱の長さ、ティーナ(手綱)の使用不使用、綱の色など36項目にも及ぶ事項が両者で確認される。これも真剣そのものの厳粛な協議である。
  13. ムトゥヤー(元家)への報告
    確認事項をイリーのムトゥヤーに報告する。
  14. 各組で行事に使用する道具を点検・補修する
  15. メースクミ(前仕込み)
    出し物の予行演習である。なかでも事の最初に歌われる「カジャデフー節」は毎日行われる。エーサーは多人数が参加するので時々行われる。
  16. (ここから当日)旗頭の組み立て
    東村は白地に赤い房の付いた龍の絵ののぼり。西村は琉球王国尚家の家紋である三つ巴の紋所の旗。
  17. 8月16日のウグヮン
  18. 各種出し物出演者の支度の化粧
    東村はミルク(弥勒)神、子どもを連れる。西村は唐のウフアジ(大按司)。子どもはこの日は学校を早退して化粧にかかる。
  19. 会場への移動
  20. 綱の移動開始
  21. 六尺棒の検査と綱の計測
    各組のもつ六尺棒の長さが等しいことを確認し、相手側の組の綱の長さを計測する。
  22. ウッチャーイ(打ち合い)
    道路に陣取る両組の中央に中線が引かれているが、その線を越えない範囲でさまざまなパフォーマンスを繰り広げて相手方を威嚇する
  23. 持ち上げ
    いよいよ綱を持ち上げる。
  24. 雌綱の先の輪に雄綱の先の輪を挿入しクヮヌチグチ(貫木口)をあわせる。
  25. クヮヌチボー(貫木棒)を差し込んで結合を完成する。
  26. 綱を引きあう
    勝った組が豊作(ユガフ=世果報),負けたほうが凶作(ガシユ=餓死世)となるので、勝つほうを前もって決めている場合もある。あるいは、第1戦は勝敗を決めておいて、2回目をガチンコ勝負とするところもある。
  27. ガーエー
    既述の張り合いである。
  28. 東西の広場に戻る
  29. 綱の一部を切り取り海に流す
  30. 道ジュネーの準備
    アシビー(道芸能)、棒術、ハーブシグヮー(端節小)、エイサー、合同アシビなどの準備に入る
  31. カチャーシー
  32. (ここから翌日)衣装道具の整理
  33. グリージ(御礼辞)
    来年のための拝み
  34. 道ジュネー
  35. 後アシビー
    慰労会である。
  36. (翌々日)会計報告