2002年 10月 1日 火曜日

風媒花


 散歩の道筋に秋の野の花が咲いている。a)ススキもつやつやとした穂を開いてきた。b)ヨモギ、c)ブタクサ、d)カナムグラも花を咲かせている。e)セイタカアワダチソウも黄色いつぼみの並んだの花房をするすると伸ばしている。

 b) から d) までは花粉症を引き起こす植物のブラックリストに載せられている。これらの花はみな「風媒花」だ。受粉(種の保存)のために必要な花粉の移動を気まぐれな風に任せる。当然に受粉の確率が極度に低くなるので、確率を上げるための方策として、ひとつは花粉を遠くまで飛ばせるために花粉を小型化・軽量化する。また花粉を大量に散布する。そしてこれが花粉症の原因となる。

 虫媒花は受粉を虫に頼るから、「へっへっへ、虫さんご機嫌いかがでやすか」と揉み手する。虫に立ち寄ってもらうために、花を派手な色にしたり、いい香りを漂わせたり、美味しい蜜を用意したりする。e)のセイタカアワダチソウは一時花粉症の元凶のように言われたが、あの花の美しさ自体(昔は花屋の店頭を飾っていた)が彼女の無実を証明しているのだ。

 風媒花はいさぎよい。虫なんかにおもねることがない。「下手な鉄砲も数撃ちゃあたる」、これが風媒花の戦略だ。

 ここまで来て、人間も風媒花の一種ではないのかという思いにいたった。精子の数が多すぎる。精液量は2ml(=2cc)ぐらいのものらしいが、この精液中に約1億7千万個ものの精子が含まれる。ある生徒に「なぜこんなに多いんかなあ」と聞いてみると、「優秀な精子を選ぶためよ」とこともなげに答えてくれた。そんな説もあるのだろうか。しかし、そんな目的のために億単位の精子までは必要ではない。やっぱり、「下手な鉄砲も‥‥」のやりかたなのだろう。

 一個の花粉が、あるいは地の果てで待ち続ける同一種の花の柱頭にたどり着くまでの気の遠くなるような距離は、1個の精子と1個の卵子の間の距離に等しいのである。花粉の量が減少すると受粉の可能性がぐんと低下する。同様に、精液中の精子の量が減少すると、受精の可能性がうんと低下する。

 人間の精子の減少に関する報告があい続いている。
 帝京大医学部の押尾茂講師(泌尿器科学)らは「日本人の20代男性の精子の数が40代前後の男性に比べ半数ほどしかない」(1mlリットル当たりの平均精子数が40代前後の男性は8,400万個に対し、20代男性のそれは4,600万個ほどしかなかった)という調査結果を報告している。

 また吉村泰典・慶応大医学部産婦人科教授ら「精液1ml中の精子の数は、1970年代に平均6500万個あったが、1980年代は6300万個になった。1990年代は6000万個を割り込み、1970年代と比べると約一割減っていた」と報告した。

 デンマーク大学病院のスカケベック教授は世界的な精子の減少傾向について「ここ30年ほどの間に何らかの複合原因により精子が減少したと考えられる」と結論している。

 日本の場合、精子を激減させた原因とされている環境ホルモンの出所として、「食器に使われるポリカーボネート」、「スチール缶(内側に金属が錆びないようにコーティングがほどこされている)」、「インスタントラーメンのカップ容器」、「水道水」などが疑われているらしい。今後の研究でこのあたりがもっとはっきりとしてくると思う。

 風媒花である人間にとって精子量の減少は大変な問題だ。環境ホルモンがその原因だとすると、人間の文明はすでに人間を疎外する段階に突入している、ということかもしれない。