2000年03月17日(金曜日)
拍手


    死んだ母は、横綱北の海が好きだった。北の湖が余りにも強くすぎて「憎まれ役」になっていたころである。ごう然としきりを繰り返す横綱の姿に反感を抱く人も多かったのだが、 母はなぜかこの横綱 を好んでいた。

 その「北の湖」が、今場所連日沸き起っている横綱・若乃花に対する手拍子の応援に関連して、次のように語っていた。

 私も、引退が採り沙汰されるようになったころ、場内の観客からの大歓声の応援を経験した。拍手もすごかった。そのときに思った、『憎まれ役の自分がこんな応援を受けるようになっちゃおわりだなあ』と。

 子どもたちは親の拍手に励まされて学業やスポーツで「いい成績」を取る。拍手を受けつづけるためには、努力をしつづけなければならない。「気力」を持ちつづけなければならない。それを苦痛と感じる子どもも多いことだろう。そこで子どもはある日、親の拍手から逃れる決意をしたりもする。成績を落とす決意をする。

 アラン・シリトーの『長距離ランナーの孤独』も、そんな拍手のなかで作られるニセモノの自分との対決がテーマだったし、森鴎外の『舞姫』もそうであった。

 「つくられた横綱」と呼ばれることさえある若乃花にとって、今場所の手拍子はつらいものであったろう。横綱は昨日、高校の後輩である栃東に負けて引退を表明した。