2001年 3月27日 火曜日

 


   本日松山・日本コリア協会(東俊一代表・松原満紀事務局長)は文部科学省文部科学大臣町村信孝氏及び同省教科用図書検定調査審議会宛に「新しい歴史教科書をつくる会」の歴史教科書・公民教科書の検定に関する要望書を送付し、マスコミに対してもファックスでそのむね通知しました。教科用図書検定調査審議会宛の要望書を掲載します。

 

教科用図書検定調査審議会殿

2001年3月27日

「新しい歴史教科書をつくる会」が中心になって作成した歴史教科書と公民教科書の検定を 不合格にする事を要望します

 松山・日本コリア協会
   会長  東 俊一

私たちは、韓国・朝鮮との民衆レベルでの交流をすすめつつ、アジアの平和を目指して活動している市民団体です。

私たちは、「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書がどのようなものであるかを知りうる立場にはありませんが、同会の編による『新しい教科書誕生!!』(PHP研究所発行 2000年9月11日)における歴史教科書執筆者西尾幹二氏の発言を見る限りにおいても、この教科書によって学ぶ子どもたちが将来抱くことになる日本観やアジア観に深い憂慮の念を抱きます。

1. 侵略戦争の可能性

西尾幹治氏は同書のなかで「戦争は悲劇である。しかし、戦争に善悪はつけがたい。どちらかが正義でどちらかが不正であるという話ではない。国と国とが国益のぶつかりあいの果てに、政治では決着がつかず、最終手段として行うのが戦争である。アメリカ軍と戦わずして敗北することを、当時の日本人は選ばなかったのである」と書き「この部分はわれわれの志を強く訴えたものであり、『作る会』の原点といえるかもしれません。」(26〜27P)と述べています。

 言うまでもなく今日においても、「国と国とが国益のぶつかりあいの果てに、政治では決着がつか」ないことはよくあります。北海道の二島および千島列島をめぐる日露の対立、竹島を巡る日韓の対立、尖閣諸島を巡る日中の対立、これらはみな政治による決着が容易でない問題といえます。

 このような状況の中で、西尾氏の「国と国とが国益のぶつかりあいの果てに、政治では決着がつかず、最終手段として行うのが戦争である」とする観点は、戦争による解決を合理化するものとなっており、この教科書を学ぶ子供たちに、日本は今後も戦争で決着をつけなければならない局面を迎えることがありうると確信させるもので、憲法の精神、なかんずく憲法第九条の規定を否定するものとなっています。

2. 戦争挑発者の免罪

 1941年の日米開戦について「アメリカ軍と戦わずして敗北することを、当時の日本人は選ばなかったのである」と述べていますが、マレー半島占領と真珠湾攻撃は天皇と軍部中枢が選んだ道であって臣民が選んだ道ではありません。当時の帝国臣民には国の進路を選ぶ手段は与えられていなかったのであってこの記述は軍部の立場に立った歴史の歪曲というべきです。

 ちなみに、侵略戦争肯定論者であり、2・26事件の後の国会における粛軍演説で有名な斉藤隆夫は、1943(昭和18)年に、この戦争の責任者について次のように述べています。「我々現代人が苦しめば我々の子孫は繁栄すると考えていたら大変なるまちがいである。戦争は勝てない。結局に於いて日本は負ける。大敗を招く。米英は無条件降伏を強要する。」「而して是はいったい何者の責任であるか。一切挙げて戦争挑発者たる軍部と軍部に迎合する時局便乗者の責任である。」「彼らは戦争に熱中し国民を扇動し欺瞞しつつ最後の勝利を夢見ている。」しかし「今より何年か後には余の観測は必ず的中する」。

 斉藤隆夫はこう述べ、2年後にはこの予言が100%的中しました。戦時中においてすらこれだけの客観的な認識が可能であったのに、西尾氏が今に至ってまだ戦時中の軍部の見解を踏襲しようとするのは時代錯誤としか言いようがありません。

3. アジアの独立運動の歪曲

 西尾氏はまた同書で、「(日米開戦以後)わずか百日ほどでアジアから白人を追い出したので、『東南アジアやインドの人々、さらにはアフリカの人々まで独立への夢と勇気を育んだ』と記述しています。」(26p) と述べています。

 しかし、周知のとおり、アジアの民族解放運動のなかで重要な役割を果たした中国共産党が創立されたのは1921年であり、中国大陸に投入された100万の皇軍を相手に粘り強く展開された抗日運動は1937年にはじめられました。 また、ベトナム人がベトナムの独立を目指してベトナム共産党を創立したのは1930年であり、そのベトナム共産党が民族統一戦線ベトミン(越南独立同盟)を結成したのは1941年5月でともに日米開戦以前です。

 アジア各国の民族解放・独立の戦いを「大東亜戦争」によって育まれ勇気で説明しようとするような歴史教科書は「歴史の歪曲」としか言いようがありません。

4. 検定を不合格にせよ

 このように『新しい教科書誕生!!』から垣間見られる「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書には歴史の歪曲というべき重大な問題が含まれています。

私達は貴検定調査審議会にたいして、日本国憲法前文の精神、ならびに、日本国憲法の「理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである」とする教育基本法の精神に立脚し、「新しい歴史教科書を作る会」が中心となって作成した歴史教科書ならびに公民教科書を不合格とされんことを要望します。