2001年 2月26日 月曜日

 自殺予防教育 Suicide Prevention Education


   生徒の自殺に直面することは家族の悲嘆はいうまでもないが、学校の教員としても実につらいことである。「教えるとは希望をかたること」と歌ったのはルイ・アラゴンであった(1945年)が、その意味で、生徒の自殺は「教育の不在」を宣告しているのである。

 セネカの「自殺は人間の特徴である」に従えば自殺を全くなくすることはあるいは不可能なことなのかもしれない。しかし、それが事の本質であるとしても、我々はやはり、この悲しみを繰り返さないために最大限の努力を尽くさなければなるまい。子どもたちの未来こそが、教育の営みの根本的前提であるからである。

ここでは「自殺防止教育」を学ぼう。高橋祥友『自殺の心理学』には米国カリフォルニア州の自殺予防教育が紹介されている。

 同書によれば1950年代から1980年代にかけてアメリカ合衆国の自殺率は比較的安定していたにもかかわらず、ただ若者の自殺だけが約3倍に増加した。家庭崩壊やアルコールや薬物乱用等々が自殺率上昇の原因と指摘されているという。 そういう状況を背景として取り組まれている自殺予防教育であるが、次の三つの分野で取り組まれている。

1 生徒を対象とした自殺予防教育
2 教師を対象とした自殺予防教育
3 親を対象とした自殺予防教育

 ここでは最も取り組みやすいと思われる教師を対象とした自殺防止教育を見ておこう。カリフォルニア州での取り組みはおおよそ次ぎのようなものであるという。

1 家族が子どもの悩みに気づかないことがよくある。
2 生徒の自殺の危険の早期発見と自殺予防において、教師の果す役割は大きい。
3 教師は思春期特有の心性やその時期特有の精神疾患について正しい知識を持っておかなければならない。
4 教師はその上で、思春期の、自殺などの危機的状況についての正しい知識を持っていなければならない
5 自殺予防についての正しい知識を身につけるために、教師は定期的に精神保健の専門家と会合を持つ。
6 このような会合を通じて精神保健の専門家と教師の間に良好な信頼関係を成立させ、生徒の自殺の危険に気づいたときにすぐに専門家に相談を持ち掛けることが出来るようにしておく。
8 会合では、また、ある生徒の自殺の危険性が高まった場合の対応のシミュレーションをもうける。

○その生徒を傷つけずに、さらに情報を集めるにはどうするか
●実際の自殺の危険度はどのくらいか
○親にどうやって自体の深刻さを説明するか
●精神科治療は必要かどうか
○生徒を紹介する臨床心理士や精神科医を個人的に特定しておく
※自殺未遂が生じてから医療機関を探すのは避けなければならない。事態の最初の数時間の持つ意味が非常に大きい。

9 会合では、また、必ず小人数に分かれて、精神疾患、死、自殺などについて教師自身の意見を交換する。教師自身が死に対する自分の意見をはっきり把握しておき、生徒の自殺のサインを正しく受けとめられるようにしておく

 自殺が予見された場合の対応が事細かに検討されているが、「相当因果関係論」を学んだわれわれには「相当因果関係論」の拡大適用への反撃が意図されているかのようにも見える。著者自身も「アメリカは訴訟社会であるので、……州や学校の防衛的な面から実施されている点も完全に無視できない」と述べてるので米国でも同様な事情があるのであろう。

 しかし、そう斜に構えてみることもあるまい。学ぶべきことの方がはるかに多い。